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噛まなくなった現代人に危険信号 2 -よく噛むには〝正しい噛み合わせ〟が条件-

 健全な咀嚼は、咀嚼筋やあごの関節、あごの骨、それに歯や歯周組織、舌、唾液腺など、咀嚼系を構成する器官と中枢神経系が健全に働かなくては成り立たない。特に、咀嚼運動には、「噛み合わせ(咬合)」が具体的に関わるので、咬合に問題がある場合には、咀嚼にも影響が出てくる。現代の日本人が噛まなくなったのは、噛み合わせの不具合も影響しているということはないだろうか。

 

 小林義典教授によれば、「噛み合わせが不安定だったり、損なわれている場合には、歯科治療を行い、適正に回復する必要があります」ということだ。悪い噛み合わせをそのままにしておくと、「ものが食べにくい」だけでなく、顎関節症や口腔顔面痛、口腔顔面変形、姿勢障害、全身運動機能低下、聴力障害などを起こしやすくなることもあり、脳内ストレスや睡眠中の歯ぎしりや噛みしめ、睡眠障害を起こす可能性もあるという。

 

 「噛まなくなった現代日本人」は。今一度、「咀嚼」の重要性、「食べる」ことの正しいあり方について考え直す必要があるようだ。なによりも、健康長寿には、「咀嚼」が大切なことを再認識したい。

「噛むこと、そして食べることは、人間が生きていくための基本的な動作です。多くの動物では、噛めなくなることは命が終わることを意味します。家族が食卓を囲んで楽しく食事すること、そして健全な咀嚼は何かまで、『いかに食べるか』を考えることは、今、緊急の課題として、われわれが取り組まなくてはならないことだと思います」


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噛まなくなった現代人に危険信号 1 -戦前に比べると、咀嚼回数は6割も減少-

「食事の時間を惜しんで、噛む時間が短くてすむ、柔らかいファストフードやジャンクフード(塩分、糖分、脂肪分が多く、栄養価が低いスナック菓子などのこと)のようなものばかり食べている現代日本人の咀嚼回数は、わずか数十年の戦前に比べると、約6割も減っています。

時代によって変わる咀嚼回数(1回の食事)

     弥生時代  3990

     鎌倉時代  2654

     江戸時代  1465

     戦前    1420

     現代     620

また、健康を維持するためには、本来は食事から必要な栄養素を適切に摂取することが大切なのに、安易に健康補助食品や栄養剤などを多用するという傾向もあります。こうしたことで、人間の生存にとって身体的にも精神的にも不可欠な、『咀嚼』という行動が疎かにされ、いろいろな問題が起きてきているのです。

 

 小児や未成年者が、噛む回数が少なく柔らかい、ファストフードやジャンクフードばかり食べていますと、咀嚼筋とそれらが関連する顔やあごの骨の成長発達が遅れ、頭、顔、あご、口、さらに唾液を分泌する唾液腺、特に耳下腺の発達が抑えられ、あごが小さくなります。それに伴って、歯や舌の位置が不正となり、口呼吸となり、虚弱体質をつくることになり、顎関節症や種々の耳鼻咽頭疾患、姿勢障害、睡眠障害などを発症させやすくします。必然的に先ほど述べた咀嚼の効能も阻害されます。また、中高年以上でも咀嚼の効能が阻害され、健康に影響が及ぶことになります。」

小林義典教授はそう警告する。


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噛むことの効用 3 -よく噛んで唾液を出すことの効用-

 

 

味覚を助長

 美味しさを味わい、脳を刺激してリラックス効果を生む。

消化・吸収を助長

 消化酵素アミラーゼがデンプンを分解して消化を助ける。

成長を助長

 唾液由来のホルモンが、上皮細胞の成長や神経細胞の増殖・脳細胞の成長を促す。

むし歯や歯周病予防

 原因菌を洗い流すだけでなく、唾液に含まれるスタテリンが歯の再石灰化を促し、また歯を強くする。

口腔粘膜の修復

 食べ物で傷ついた口の中の粘膜を修復する。

消火器粘膜の保護

 唾液に含まれるムチンが、食べ物をオブラートのように包んで食道や胃の粘膜を保護する。

抗菌作用

 抗菌作用のある唾液中のリゾチウムやラクトフェリンなどが細菌の働きを弱める。

食物中の発がん物質の発がん性を抑制

 唾液酵素のペルオキシターゼが食物中の発がん物の発がん性を弱める。

活性酵素の消失

 唾液中のペルオキシターゼが活性酵素を消す

NK細胞の増加

 唾液中のラクトフェリンが免疫細胞のNK活性を増加させる。

老化の抑制

 唾液中のEGF(上皮成長因子)やNGF(神経成長因子)などのホルモンが、老化を抑制する。

糖尿病の予防と治療効果の向上

 唾液に含まれるIGFという物質がインシュリンと同じような働きをして、糖尿病の予防と治療効果を高める。


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噛むことの効用 2 -よく噛めば、肥満の防止と健康増進-

〝よく噛む〟ことは、肥満の防止になることが分かっている。よく噛めば、脳の「満腹中枢」が刺激され、脳内ヒスタミン神経系が賦活されるので、食欲が抑制される。同時に内臓脂肪が分解されて、体熱生産や放散が促進される。〝よく噛んで〟食事をすれば、肥満にならないということだ。

 また、よく噛めば、口の中の粘膜から栄養素を吸収することも分かっている。さらに、食事をとることで上昇した血糖値を下げて正常化する作用があるので、糖尿病の治療効果を上昇させたり、予防的な効能もある。

 その他、〝よく噛む〟ことの効用は、身体の運動機能の上昇、視力低下の予防、免疫力の向上、骨粗鬆症の予防などが報告されている。

 特に、よく噛むと盛んに分泌される「唾液唾液 」の効用を忘れてはいけないと、小林義典教授は語っています。「唾液の分泌を促進すると、虫歯や歯周病の予防につながり、また、細菌の働きを抑えます。その他、食物中の発がん物質の働きを抑えたり、アレルギーに関わる抗原に加え、活性酸素を消失させます。さらに、ウイルスなどを直接攻撃するNK(ナチュラルキラー)細胞を増加させたり、老化を抑制したり、私たちの体にとって、大変重要な働きをしているのです。十分な唾液の分泌を促すためには、歯ごたえのある食物を一口で30秒、または30回以上よく噛む必要があります」

 


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噛むことの効用 1 -噛むことで心も体もリラックスする-

 よく噛むことは、脳の活性化につながるだけではない。咀嚼によって得られる様々な効果が、今、明らかにされつつある。

 

 例えば、咀嚼は心身のリラックス作用を引き出す。美味しいものを食べることで、脳の報酬系(歯が互いに接触したり、食物が歯や歯肉に接触することによる刺激)が刺激され、〝快情動〟が引き起こされる。すると、人を心地よい気分にさせる脳内物質「β―エンドルフィンエンドルフィン 」の分泌も促されるので、リラックス作用につながる。

 

 実際、健康な人にガムを噛んでもらい、そのときの脳波を調べてみると、リラックスしたときに観察される「α波」が増加し、イライラしたり緊張しているときに出る「β波」の低下が認められる。それは、ガムを噛み終わったあとにも持続するという。

ガムなどを噛む効用には、ストレスを軽減し、緊張を和らげる働きもあるのだ。


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よく噛むことと脳のリハビリ効果 2 -よく噛むことで脳が活性化する-

 私たちは生活の中で歩くことや呼吸することと同じように、無意識のうちに咀嚼ソシャク)を行っている。しかし、食べ物を噛み砕いて唾液を混ぜて飲み込みやすくするという行為は、下あごの動きや唾液の分泌、舌をうまく使うなど、極めて複雑な運動の組み合わせで行われている。

 日本咀嚼学会理事長の小林義典教授は、「咀嚼によって、機械受容性(歯が互いに接触したり、食物が歯や歯肉に接触することによる刺激 )、味、臭、温度などの三叉神経を介した強い感覚入力が脳の広い範囲に及び、脳が活性化されます。」と、咀嚼の果たす役割を次のように説明する。

 まず、脳の網様体網様体 に入力されると情動や記憶にかかわる覚醒を生み、人間としての行動的な覚醒作用につながる。つまり中高年以上ではよく噛むことで、脳のリハビリテーション効果が期待できる。また高齢者では、寝たきり状態にならない予防効果もあるそうだ。

 さらに大脳皮質に入力されると、情動や記憶にかかわることも入力される。たとえば幼稚園児や小学生、大学生に1日に3~4回、各10~15分間、毎日ガムを噛むことを2週間以上やらせると、テストの成績が上がっていくという。幼稚園児や小学生では、十分な咀嚼と知能指数との間に、相関関係が認められている。

 脳活性化をあらわす脳血流量の増加は、咀嚼によって確認されています。咀嚼は手や指の運動よりも脳血流を増加させたという研究報告もあり、また、硬い食物のほうが柔らかい食物よりも効果があることがわかっています。つまり、歯ごたえのある食物を食事に取り入れてよくかむことは脳の活性化にきわめて重要であるといえます。

 ちなみに姿勢も重要で、寝たままあるいはリクライニング状態では脳の活性化が望めません。少なくとも上半身をまっすぐに姿勢を正して、咀嚼しなければなりません。


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